EPISODE　　2022.08.02

真夏の不思議な体験

その日は4人パーティ(Eさん・Mさん・Nさん)で茅ヶ岳山行。茅ヶ岳は日本百名山を選定した作家・登山家の深田久弥氏の終焉の地。氏は山頂まであと僅かという場所で脳卒中にて急逝。登山口には深田久弥記念公園があり、斃れた場所には小さな墓碑が鎮座する。

墓碑に手を合わせ、無事に登頂した我々4人は山頂で360度の大展望を満喫し、お昼を食べてから下山にかかる。下山途中、先頭を歩くNさんがストックの先を持ち上げて声をあげる。

「あ～っ！ストックの先のゴムキャップ落とした～！」

片方のストックのゴムキャップが付いてない。後を歩いていた誰も気づかなかったし、周辺を探してみたが見つかる筈もない。仕方がないので諦めて進む。登山ではストックのキャップを無くす事は少なくはない。木の根に引っかけたり、岩の間に挟まったりで、知らないうちに外れている。でも逆に他人が落としたキャップを拾うこともある。かなりの人が経験している“登山あるある”だ。30分ほど歩くとまたNさんが声を上げる。

「あった～！」他人が落としたキャップを見つけたのだ。

そのキャップを拾い上げてなくしたストックに差し込もうとした時、

「え、え～～っ！なんで？」それを見た皆が驚く。

何と、ストックの先には無くしたはずのキャップがちゃんと着いているのだ。キャップの外れたストックは、皆が確認していた。

「え、なんで、なんで～～～？」大声をあげて不思議がる。

「奇跡だね！」信じられない不思議な事があるものだ。

山では不思議な事がまま起きるという話は書籍等で知ってはいたけど、本当にこんな事ってあるんだね。私が言った。

「きっと深田久弥さんが見つけて着けといてくれたんだよ！」

皆、妙に納得した。

はたして、この日はお盆、8月15日だった。